意志だけでは足りない
依存症の回復には、もちろん本人の意思が必要です。
でも、意思だけでは説明できないことがたくさんあります。
そしてもう一つ、
とても大事なことがあります。
それは
人間の脳は「禁止」がとても苦手だ
ということです。
「ピンクの象を考えないでください」
有名な話があります。
「ピンクの象のことを考えないでください」
そう言われた瞬間、
ほとんどの人の頭の中に
ピンクの象が浮かびます。
人間の脳は、
否定形をうまく処理できないのです。
「やってはいけない」
「考えてはいけない」
と言われると、
むしろそこに意識が集中してしまいます。
依存行動でも同じことが起きる
依存症でも同じことが起きます。
「やるな」
「飲むな」
「使うな」
そう言われれば言われるほど、
その行動に意識が集中してしまう。
依存症の人が弱いからではありません。
これは
人間の脳の性質です。
CRAFTが使う「強化」という考え方
CRAFTでは、
この問題に対してとても実践的な方法を使います。
それは
強化(reinforcement)
という考え方です。
依存行動を止めさせることよりも、
依存行動ではない行動を強くする。
例えば
「ポテトチップスを食べちゃだめ」
ではなく
「今日は食べなかったら〇〇しよう」
というように
別の行動に報酬を与える。
そしてCRAFTでは、
その報酬が 「一緒にする楽しいこと」 であることが多いのです。
つまり
つながりです。
私たちの家族で起きたこと
実は私たちの家族でも、
このことを痛感した出来事がありました。
リハブから出たばかりのころ、
リラプスに関してのはっきりした指示が
家族にはありませんでした。
わからないままに、こういうルールを作りました。
3回リラプスしたら家を出てもらう
というものです。
当時はリラプス自体をとても恐れていました。
一見、筋が通っているように思えます。
でも今思えば、
そのルールは
「禁止」に強くフォーカスしたものでした。
そして三回目のリラプスが発覚したとき、
息子はとても強い恐怖に襲われました。
そして自分から家を飛び出してしまいました。
恐怖の中で隠すしかなくなる
後で息子はこう言いました。
三回目を隠すのに必死だった。
生きた心地がしなかった。
そしてこうも言いました。
「結局、自分なんかいらない存在なんだって思ったんだ」
その言葉を聞いたとき、
私はとても胸が痛くなりました。
私が望んでいたのは
そんなことではなかったからです。
母親としては
ただ安全に家で暮らしていてほしかった。
でも、
逆の方向に働いてしまいました。
それは、禁止に焦点が当たっていたためです。
リラプスは罰の対象であってはならない
その経験を経て、
私たちの家では
考え方が変わりました。
リラプスは罰の対象であってはならない。
それは、私たちも学んだからです。
依存症は病気だから。リラプスが起きることを憂うのではなく
リラプスが起きたときのルールを決めました。
まず、正直に言うこと。
そして、再発が立て続けにならないように、プランを話あうこと。
後になってCRAFTを学んだとき、
私は驚きました。
CRAFTでは
リラプスを
「回復の過程で避けられないこと」
として扱っていたからです。
自分たちで出した答えと重なっていたから、
とてもうれしかった。
小学校のころ答え合わせをして満点だった気分でした。
同時にせつなかった。
こんな最適解が出ているのなら
どうして息子を傷つける前に知ることができなかったんだろう。
回復を支えるのは「つながり」
依存症の回復は
「やめろ」
という言葉から始まるのではありません。
むしろ
別の生き方を一緒に強くしていくこと
から始まります。
そしてその中心にあるのは
つながりです。
リラプスしてしまった、つまり
やめられなかった本人を罰するのではありません。
そうではなく、リラプス後、どうやって
素早く「いっしょに」立て直すか。
これも、「いっしょに」抱えることにほかなりません。

